売買契約は解除できるの?
不動産はとても大きな買い物です。万が一契約の後に何等かの事情で解除せざるを得ないことになった場合、契約は解除できるのでしょうか?また、契約時に支払った手付金はどうなるのでしょうか?契約の解除について把握しておきましょう。
解除にはどんな種類があるの?
一口に契約の解除と言っても、解除には3つの種類があります。
1. 白紙解除
白紙解除とは、売買契約が最初からなかったことにしてまっさらな状態に戻すというものです。つまり、売買契約時に支払った手付金は全額返金されることになります。
2. 手付解除
手付解除とは、売買契約時に授受する
手付金(売買代金のの5%前後が多いです)
を放棄することによって、「やっぱり買うのやめます」という自己都合による解除を認めるものです。
3. 違約解除
違約解除とは、売主・買主のどちらかが義務を果たさなかった時や、売買契約で定めた約束事を守らなかった時、そして手付解除期日を超えた後に売買契約を解除したい時に、売買契約締結時に定めた違約金(売買金額の10%が一般的です)をペナルティーとして支払うことで解除します。
売買契約書・重要事項説明書に記載された契約の解除について
それでは実際に不動産の売買契約書・重要事項説明書に記載されている契約の解除の7パターンについて見ていきましょう。
1. 手付解除
手付解除とは、売買契約時に授受する手付金の損失だけを覚悟すれば、一方的な都合で売買契約を解除できるというものです。 一見ワガママとも思える「やっぱりやめます」という理由で解除できます。
例えば、買主が「もっと良い物件がみつかったからこの物件を買うのはやめたい」という理由で解除する場合、契約時に支払った手付金を放棄して解除することができます。(手付金放棄)
また、売主が「やっぱり売りたくない」という理由で解除する場合、契約時に受け取った手付金を返還し、さらに手付金と同額を支払って解除することができます。(手付金倍返し)
具体的には、売買金額が4000万円で200万円の手付金が授受された場合、
買主はこの200万円を放棄することによって契約を解除でき、売主は手付金200万円にプラスしてさらに200万円(合計400万円)を買主に払うことによって契約を解除できます。
この手付解除には「解除可能な期限」が設けられるのが通常で、「契約締結から7日~14日程度」とされることが多いです。売主が不動産会社の場合には期日を設けられることが禁じられており、代わりに「売主・買主のどちらかが契約の履行に着手するまで」という文言が入っていることが多いです。
手付解除の場合、契約時に支払った仲介手数料は返還されないのでご注意ください。
2. 引渡し完了前の滅失・毀損による解除
契約後、売主・買主どちらのせいでもなく引渡しができない状態になってしまった場合の解除です。例えば、契約後に大地震がありマンションが倒壊してしまった、あるいはマンションの他の住民の出火により全焼してしまった等です。これらの場合は売買契約を白紙解除する(なかったことにする)ことができます。
この解除条項がない場合、民法では買主がこのリスクを負うとされており、滅失した物件を予定通りの価格で買い取らなければならなくなってしまうため、買主保護の観点からこのような条項を契約書に入れています。
滅失・毀損による解除の場合、契約時に支払った仲介手数料は返還されます。
もし、売主の火の不始末が原因で出火した場合には明らかに売主の責任ですから、滅失・毀損による解除ではなく、次に説明する契約違反による解除が適用される可能性が高くなります。
3. 契約違反による解除 (違約解除)
売主・買主どちらかが契約違反をした場合の解除条項です。債務不履行(違約)による解除とも言います。
例えば、売主は物件を引き渡すこと、買主は売買代金を支払うことが義務です。それをどちらかが怠った場合は、もう一方から契約違反による解除ができます。
また、手付解除期日を過ぎた後に売買契約を解除する場合も「違約解除」です。
このような場合は、あらかじめ定めておいた違約金をペナルティーとして支払うことで売買契約を解除することになります。違約金は売買代金の10%~20%とされることが多いです。
買主が契約違反をして違約解除する場合、既に支払っている手付金と違約金との差額を支払います。
売主が契約違反をして違約解除する場合、受領している手付金を返還し、さらに違約金を買主へ支払う必要があります。
これらの場合は契約時に支払った仲介手数料は返還されません。
4. 融資利用の特約(住宅ローン特約)による解除
買主が住宅ローンを利用して購入する場合、売買契約書で定めた期日までに
住宅ローンの本審査が承認されなかった場合、融資利用の特約(
住宅ローン特約)により売買契約を白紙解除できます。売買契約前に
住宅ローンの事前審査を受けることはできますが、本審査は売買契約後でないと申込みができないため、このような特約を設けています。白紙撤回ですから、売買契約ははじめからなかったものになります。
この場合、手付金は売主から買主に返還されます。仲介手数料も返還されます。
なお、実際には住宅ローン本審査の承認がされているのに、自己都合で解除したいけど手付金を放棄するのが嫌だという理由で「本審査が承認されなかった」と嘘をつくと、3の契約違反による解除(違約解除)と見なされペナルティーを負わされます。このような事例から、解除条項には利用する金融機関(名称・支店名)と利用金額などが記載され、場合によっては「本当に融資が承認されなかったのかどうか」を確認することができるようにしています。
5. 譲渡承諾の特約による解除
マンションや一戸建の敷地が借地権の場合の条項です。借地権は第三者に転売することができますが、通常、地主さんの承諾が必要になり「賃借権譲渡承諾書」を取得することによって売買することができます。万が一この承諾書を取得できない場合、契約書で定めた期間内であれば売買契約を白紙解除できます。
白紙撤回ですから、売買契約ははじめからなかったものになります。
この場合、手付金は売主から買主に返還されます。仲介手数料も返還されます。
6. 瑕疵の責任および瑕疵による解除
売買契約を締結する時に売主も知らなかった瑕疵(「かし」と読みます。「欠陥」と置き換えてください。)を、引渡し後に買主が見つけた場合、売主に対して補修をお願いしたり、損害賠償することで調整を図りますが、もし買主が売買契約を締結した目的を達成できない場合(つまり、住むことができなかった場合など)には、売主の瑕疵担保責任を追及して、売買契約を白紙解除できることがあります。
ただし、解除できる場合はかなり限定されており、判例を見ると、土壌汚染・軟弱地盤・自殺や事件(心理的瑕疵)が見つかった場合は「売買契約の目的を達成できないから解除を認める」とは判断せず、「売買代金の○○%を損害賠償として支払いなさい」という判決が多いようです。
この解除条項は「瑕疵担保責任」と呼ばれていましたが2020年4月より「
契約不適合責任」と名称が変更となり、
より売主の責任が重くなりました。具体的には、買主が取れる手段として損害賠償請求権、契約の解除に加えて新たに追完請求権 (修理費用の請求) と代金減額請求権(修理費用の請求に応じない時)が追加されました。解除できる期間については売主が個人・宅建業者・事業者のどれかによっても異なりますので、詳細は
契約不適合責任のところをご覧ください。
白紙解除となれば手付金は返還されますが、そうでない場合は返還されません。
また、仲介手数料については仲介会社に落ち度があり瑕疵を発見できなかった場合は全額返還もしくは一部返還に応じなければならないと考えられますが、そうでない場合は基本的には返還されません。
7 反社会的勢力の排除に関する特約に基づく解除
売主・買主のどちらかが万が一暴力団等反社会的勢力であった場合は契約を解除できるという条項です。具体的には「当事者が反社会的勢力でないこと」「反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと」「自分から または 第三者を利用して、購入した不動産を反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供しないこと」等が定められ、それらに違反があった場合には解除できる(違約解除)ということになります。
手付金については3の契約違反による解除と同じです。
仲介手数料についてはもし仲介会社がその事実を知っていた場合はその仲介会社にも責任があるあため全額返還されますが、そうでない場合には仲介手数料請求権は消滅しないものと考えられています。
8. その他の解除
①買い替え特約による解除
買い替えで売却契約と購入契約を同時に進めている時に、売却の契約が何等かの事情によりキャンセル・解除になってしまい引渡しまでいかなかった場合、購入契約を白紙解除できるという特約が買い替え特約です。
売主側にはあまりメリットがないため嫌がられることも多い特約ですが、 買主側にとってはこの特約があることで買い替えが可能になります。詳しくは
買い替えのところをご覧ください。
白紙解除なので手付金は返還され、仲介手数料も返還されます。
②合意解除
売主・買主双方が納得のうえ解除することについて合意できた場合、売買契約書の定めがなくても売買契約の効力を消滅させることができます。これが合意解除です。
例えば、引渡日を目前にして、買主が会社を解雇されてしまったためキャンセルの申し出をし、売主が「手付解除」「違約解除」などでペナルティーを要求せず、かかった費用だけ請求して契約を解除してあげようと合意解除に応じた場合です。
手付金が返還されるかどうかは合意の内容によって異なります。
この場合 仲介手数料は返還されません。
③クーリングオフによる解除
クーリングオフとは、一定の契約に限り、一定期間、説明不要で無条件で申込みの撤回または契約を解除できる法制度です。簡単に言えば、落ち着いて判断できない状況で契約してしまい、頭を冷やしてよく考えたら「やっぱり買わない」という場合に解除ができる制度です。
申込みのキャンセルの場合は
申込みをキャンセルしたいのところをご覧ください。ここでは申込みだけでなく契約までしてしまった場合のクーリングオフについてご説明します。実際には契約の際には書類等の準備があるため、申込みから契約までの期間に冷静に考えることが可能ですから、あまりクーリングオフが適用されることはありませんので、簡単に見ていきましょう。
不動産売買におけるクーリングオフ制度の適用には3つのポイントがあります。
- クーリングオフできるのは、売主が「宅建業者」、買主が「消費者」の場合に限られます。「消費者」には消費者契約法の「事業者」も含まれますから、買主が一般個人ではなく法人だったとしても、クーリングオフすることは可能です。
- クーリングオフできるのは、落ち着いて考えられない場所で契約の判断をした場合に限られます。具体的には自宅へ突撃訪問された場合、テント張りの現地販売会などで契約した場合等です。逆に 宅建業者である売主の事務所、仲介会社の事務所、新築マンションのモデルルーム、お客さまが申出した「自宅」または「勤務先」での購入申込はクーリングオフできません。
- クーリングオフできないのは「契約履行関係が完了した時」「クーリングオフ制度の概要を書面で告知してから8日経過した時」です。
これらクーリングオフによる解除の場合は手付金・仲介手数料とも返還されます。
④制限行為能力者による無効・取消し
「制限行為能力者」というのは、認知症などで判断能力が低下しているような方のことです。このような方は民法により保護されているため、万が一契約をした場合でも無効(契約が最初から有効に成立していないことにある)、もしくは取消し(契約は有効に成立しているが、取消しの意思表示があると売買契約の時に遡って無効になる)ということになります。
この場合は手付金・仲介手数料とも返還されます。
⑤ 消費者契約法による取消し
「消費者」と「事業者」では情報の量・質・交渉力などにおいて大きな差があるため、「消費者」の利益を守るためにできた法律が消費者契約法です。
「事業者」が事実と相違することを説明した結果、「消費者」が誤認・困惑して自由な意思決定を妨害されたとき、契約の申込や、承諾の意思表示を取り消すことができます。具体的に売買契約を取り消すことができるのは不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知、不退去・監禁の場合の4つです。
この場合は手付金・仲介手数料とも返還されます。
まとめ
以上が売買契約の解除の種類です。少し難しいところもありますので、もし売買契約を解除したいと思った時には早めに不動産会社の担当者にご相談いただくのが一番です。