借地権とは
借地権という言葉をご存じでしょうか?不動産には「所有権」とは別に「借地権」という権利が存在します。
借地権とは、簡単に言うと「他人の土地を借りて、自分名義の建物を建てる(購入する)ことができる」権利です。
借地権は戸建に多い傾向がありますが、マンションでも借地権の場合があります。
マンションの場合は、一般的には「所有権」と呼ばれるものが大半で、建物と土地の両方の所有権を得ることになります。しかし、中には建物は所有しているものの土地は借りている状態のマンションも存在しますので、購入の際はよく注意しましょう。
借地権の場合は価格が比較的安価に設定されていますので、「安いな」と思ったら所有権か借地権かまず確認するとよいでしょう。
借地権の種類・1
借地権は平成4年に法律が変わり、従来の法律は「旧法」と呼ばれています。
一方で新しく改正された現在の法律を新法と呼び、「普通借地権」と「定期借家権」の2つに大きく分類されました。
主な借地権の種類は以下の通りです。
旧法普通借地権
契約期限は決まっているものの、更新することにより半永久的に借りることができる権利です。
木造などの場合、存続期間は30年(最低20年)で更新後の期間は20年と設定されており、鉄骨造・鉄筋コンクリートは60年(最低30年)、更新後の期間は30年となっています。 契約内容によっては更新料がかかる場合もありますので、契約前にしっかり確認しましょう。更新料は借地権価格の5~10% が多いと言われています。
新法普通借地権
旧法とほとんど同じではありますが、 存続期間は構造に関係なく当初30年、合意の上の更新なら1回目は20年、以降は10年となっています。こちらも更新することにより半永久的に借りることができ、旧法と同じく契約内容によっては更新料がかかる場合があります。
新法定期借地権
定期借地権は、更新ができない契約のため、期間が満了したら返却しなければいけません。また、契約期間は「新築時」からになりますので、中古で購入する場合は「残存期間」に注意しなければいけません。契約期間が50年の物件で、購入時築20年の場合は残り30年しか住むことはできないということになります。
更に定期借地権は「一般」「事業用」「建物譲渡特約付き」と細かく分かれています。
「一般」は、一戸建て、マンションともに住宅用として土地を賃借し、契約期間は50年以上と定められています。更新はなく契約終了後は更地にして返還する必要があります。
「事業用」は、店舗や商業施設等で土地を借りる場合のものとなります。契約期間は10年以上50年未満(2008年1月1日の法改正以前は10年以上20年以下)と定められており、契約終了後は更地にして返還する必要があります。
「建物譲渡特約付き」は、土地所有者が契約終了後に建物を相当の対価で買い取ることが定められており、契約期間は30年以上です。しかし、マンションなどの入居用不動産の場合には「住める期間が30年」だと、期間が短すぎる関係で極めて売りにくいため、50年程度で設定する事が多い傾向です。
下記の表は上記をまとめたものとなります。
3、借地権の種類・2
また、借地権は「地上権」と「賃借権」に分類されています。
賃借権
賃借権とは、文字通り土地を賃借(借りる)権利です。借地権の場合は、土地はあくまでも「借りている」状態のため登記はできません。そのため、登記ができる範囲は建物のみとなります。
借地権はこの賃借権に分類されることが殆どですので、借地権と言われたら賃借権だと考えた方がよいでしょう。
地上権
地上権とは、該当する土地の上の空間(地上)を貸し出す権利です。地上権は設定された土地を含む建物自体が価値とみなされ、抵当権設定する事ができます。また、地上権には登記の義務があります。
一般的に、地上権は所有権に近い権利形態であり、権利が強すぎるためあまり使われることはありません。
購入時について
抵当権について
新居を購入する際、多くの場合金融機関から住宅ローンなどを借りて購入すると思います。住宅ローンを借りる場合、購入物件を担保として抵当権が設定されることが通常ですが、借地権の場合は土地の所有者が他人であることから原則的には抵当権を設定する事はできません。借地権の場合、ほとんどの金融機関は地主に建物に抵当権を設定することの承諾書(「抵当権設定承諾」といいます)を要求し、そこに地主の印鑑証明書と実印での押印を求めます。
ただし、借地権の分類が地上権の場合は、地主の承諾なく地上権に抵当権の設定が出来ます。
費用について
購入時には、毎月支払う地代の他に保証金や権利金がかかりますので注意しましょう。
ただ、借地権の場合は土地に対しての固定資産税や都市計画税を支払う必要がないため、保証金や権利金を支払ったとしても所有権を購入するより安価となります。
a)保証金とは
賃料不払いなどに備えて支払うもので、契約終了後に返還されます 。
b)権利金とは
借地権設定の対価のため、返還されません。
また、賃料を前払いする「前払い支払い方式」という契約になっている物件もあり、これらが併用される場合もあります。前払い支払い方式は賃料の前払いになりますので、当然返還はされません。
その他費用については、所有権のマンションを購入される場合とほとんど変わりませんので、こちら(
諸費用には何がある?)を参考にしてください。
借地権のメリット・デメリット
借地権の物件を購入する場合のメリットとデメリットを確認しておきましょう。借地権は一見デメリットばかりにも見えますが、考え方次第ではご自身の求める条件にピッタリの場合もありますので、メリットとデメリットをよく踏まえることで検討の幅が広がる可能性がでてくるでしょう。
メリット
◆購入価格が安い
マンションの価格は一般的に「土地代+建物代」で構成されているため、土地代がかからない借地権のマンションは所有権より安くなります。また、残存期間によっては売却が難しいこともあるためにさらに安く設定されることもあり、相場の70%ほど(場合によってはそれ以下)で設定されることが殆どです。
◆土地の固定資産税、都市計画税の負担が不要
固定資産税や都市計画税は土地の所有者に支払い義務があるため、支払いの必要がありません。その代わり、土地を借りている賃料として、地代を支払っているということになります。
◆比較的利便性や立地条件の良い場所にあることが多い
地主は昔から土地を所有していることが多く、比較的立地条件が良いことが多い傾向があります。
◆普通地上権や地上権の場合は半永久的に借りることが可能なため、所有権とあまり変わらない
長く住み続ける予定の場合(売却の予定がない場合)は、原則的には更新が可能な契約のため「住み続けられる」という点では所有権とほとんど変わりません。
デメリット
ランニングコストがかかる
借地権では毎月地代という費用が発生します。都心などでは一般的には地代は年額で計算すると固定資産税の3~4倍程度 と言われています。マンションの場合は敷地が区分所有のため土地の負担が小さくなりますが、立地や持ち分割合によってその金額は様々です。借地権の場合、販売図面に地代の記載がありますので、そのほかのランニングコスト(管理費・修繕積立金など)と合わせて月々の費用として計算しておきましょう。
また、定期借地権の場合は契約満了時には建物を取り壊さなければならないため、マンションの場合は地代の他に建物解体準備費用が毎月かかることになります。戸建の場合は毎月決まった金額がかかるわけではありませんが、契約満了時には自己負担で更地にして返却する必要がありますので、立て壊し費用を積み立てておく必要があります。
◆住宅ローンが組みにくくなる
前述しましたが、借地権の場合は自由に抵当権を設定できないことが多く、金融機関が物件を担保として扱ってくれないことが多々あります。そのため、融資を受けられる金融機関が限られる(もしくは融資が受けられない)というデメリットがでてきます。また、抵当権が設定できたとしても、所有権が自分にないことで担保評価は弱く 、希望の融資額まで借りられない場合も出てきます。
◆売却がしにくい
買い手が現金で購入される場合は関係ありませんが、融資が受けにくいという点で売却時に売りにくさも出てきます。また、定期借地権の場合は新築時から時間が経つほど残存期間(住める期間)が少なくなるため、売却がしにくくなります。
◆更新時には更新料が必要な場合がある
全ての借地物件に該当するわけではありませんが、更新時に更新料が必要となるケースがあります。更新料は借地権価格の5~10% が相場と言われています。
◆建物を売却する際には地主の承諾がいる(譲渡承諾料が必要)
借地契約では、地主にとって借地人が十分に地代を支払っていけるか否かが重要な問題 となるため、売却時には原則地主の承諾が必要です。その際、譲渡承諾料(相場は借地権価格の5~10% )がかかります。ただし、借地権が地上権である場合は地主の承諾は必要ありません。
◆増改築の際、地主の承諾がいる(承諾料が必要な場合も)
マンションの場合はあまり関係のないことですが、戸建の場合は建物増改築の場合にも地主の承諾が必要な場合があります。もともと借地権の契約の際に使用用途が細かく決まられており、リフォームはそれを逸脱する可能性が高いのがその理由です。その際に承諾料(更地価格の3~4% )がかかることがあります。
※マンション室内のリフォームは、管理組合の定める管理規約に則っていれば自由にリフォーム可能です。
借地権付き建物の売却方法
さて、借地権付きの建物は売却することができるのでしょうか?
結論から言えば「売却可能」です。
借地権は土地を地主から借りている立場ではありますが、「借地」の権利を購入していることになりますので、権利の売却自体は可能ということになります。ただし、あくまでも「借りている」権利になりますので、地主に無断で売却する事はできません。また、借地権の売却は所有権の売却に比べて難しく、専門的な知識を必要とする場合が多いので不動産会社に細かく相談しながら進めていきましょう。
借地権付きの建物を第三者に売却する場合
建物を売却する場合でも、地主の承諾を得なければなりません(譲渡承諾)。無断で売却してしまうと、借地としての契約そのものを解除される恐れもがありますので、必ず地主の承諾を取るようにしましょう。
借地権を地主に売却する場合
構図的には権利を返す形ですが、地主に借地権を売却することもできます。この場合は地主との交渉が必要になるため、必ず買い取ってもらえるとは限りません。戸建の場合は建物ごと買い取ってもらうか、更地にして借地権だけ買い取ってもらうかを決める必要があります。
借地権が地上権のマンションの場合
この場合は、特段地主の承諾なしで自由に売却することができます。
借地権付き建物の対抗要件
地主が土地を第三者に売却した場合でも、そこに建物があり、そこに借地人の登記がされている場合は、新たな所有者に土地を明け渡す必要はありません。
ただし、借地人と建物登記の名義が違う場合は対抗できませんので注意が必要です。また、建物が火事などで滅失した場合は、滅失から2年間は建物を特定するための必要事項と、滅失日、新たな建物を建築する旨を、その土地上に掲示することで対抗することが可能となります。
起こりやすいトラブル
最後に、借地権付きの建物を購入(売却)する事で起こりやすいトラブルをいくつか述べておきます。
地代の値上げなど
借地でいちばん起こりやすいトラブルは地主による地代の値上げです。正当事由なく値上げする事は原則できませんが、それでも立場的には地主の方が強い傾向にあるため、値上げを強行される場合があります。一番の解決方法は地主と借地人との間で円満に協議を行う事ではありますが、中にはまったく交渉に応じず地代の受け取りを拒否する地主もいます。しかし、「拒否されたから」といって支払いをしないことは「賃料不払い」と捉えられ、借地契約を解除されることに繋がります。もし、地主が受け取りを拒否した場合は、「供託所」というところに従来の地代を預けてください。供託所に預けられた賃料は借地人が地主に支払うのと同等の効力を持つため、地主は借地人の賃料不払いを理由に契約解除を主張することはできなくなります。
しかし、上記のようなトラブルを避けるために、予め土地賃貸借契約書には地代をどのように決めるかなどの記載がされている場合も少なくありません。借地権付き物件を買う場合は、この借地契約書の内容をしっかり確認する事で安心して購入することができます。契約時の添付書類にはなりますが、契約前にこの内容を必ず確認しましょう!
売却時地主が承諾してくれない
マンションの売却をしたくても、地主が承諾をしてくれなければ売却する事はできません。地主がどうしても承諾をしてくれない場合は、裁判を行わなわなければなりません。裁判所から許可を得ることで地主の承諾を得ることなく売却をすることが可能となります。しかし、裁判を起こす事で地主との関係が悪くなり、それが原因で売却がしにくくなる可能性があります。買い手の事を考えると、裁判は本当に最終手段と考えるほうがいいでしょう。
借地人と建物の名義が違う
借地の場合、原則土地の借地人と建物の登記人が同じである必要があります。相続などで借地人と建物の登記が異なってくる場合がありますが、その際は早急に名義変更をしましょう。名義が違うと最悪の場合は借地契約を解除されることもあります。また、万一地主が土地を第三者に売却した場合は、借地権を主張する事はできなくなりますので、新しい所有者に土地を明け渡さなければいけない場合も出てきます。
住宅ローンが組める金融機関一覧
- みずほ銀行・・・借地の地主の承諾書をとれる場合は、建物のみを対象にローンを組むことが可能です。
- 三井住友銀行・・・戸建の場合は築40年まで、マンションの場合は築60年以内がまず条件です。従いましてマンションの場合の借入可能期間は(59年ー築年数)という計算式となります。その上で原則は地主の承諾書と印鑑証明が必要です。(但し、大手の分譲など物件次第では不要な場合もあります)旧法であれば更新が前提のため、借地契約の残存期間は問いません。
- 三菱UFJ銀行・・・店頭申込みの場合は、支店判断により、物件によっては可能な場合があります。インターネット申込みの場合は不可です。(お客様の属性がどんなに良くても受け付けていません)
- りそな銀行・・・不可です。
- 住信SBIネット銀行・・・不可です。
- AUじぶん銀行・・・不可です。
- 楽天銀行・・・マンションの場合は可能です。(但し、定期借地権の場合は不可です)
- 新生銀行・・・不可です。
- ソニー銀行・・・不可です。
- イオン銀行・・・不可です。
- 中央労働金庫・・・借地の種類によって可能かどうか異なります。可能な場合にも地主の承諾書が必要で、地主が個人または宗教法人の場合は大丈夫ですが、地主が法人の場合は不可です。
- 三井住友信託銀行・・・可能ですが、自己資金3割が必要です。また、保証会社が同系列か全国保証となり、全国保証を利用する場合は昭和50年以降の建築でないと扱えません。
- 横浜銀行・・・案件に寄りますが、難しい場合が多いです。
- ジャパンネット銀行・・・不可です。
- フラット35(ARUHI) ・・・マンションであればOKな場合が多いです。戸建や土地でも基本OKですが、地主の許可が必要となり、承諾書の文言がとても厳しいので、それに了承する地主はほとんどいないのが現状です。
- フラット35(みずほ銀行) ・・・基本的にARUHIと同じです。
- フラット35(りそな銀行) ・・・基本的にARUHIと同じです。
- フラット35(住信SBIネット銀行) ・・・基本的にARUHIと同じです。
- フラット35(楽天銀行)・・・基本的にARUHIと同じです。